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2019年4月24日
2017年度 後期研修会の記録


 2017年11月23日(木)〜25日(土)に、高知県立県民ホールにて第27回日本産業衛生学会全国協議会が開催されました。学会のテーマは「「大規模災害に備える産業保健」〜過去に学ぶ・未来に備える〜」で、25日には産業歯科保健部会の平成29年度後期研修会(中国四国産業歯科保健部会研修会を兼ねる)を開催しました。今回のテーマは「特定健診・特定保健指導における歯科口腔保健」で、50名の参加がありました。


 ◆平成29年度後期研修会(中国四国産業歯科保健部会研修会を兼ねる)

 テーマ: 特定健診・特定保健指導における歯科口腔保健

 日 時: 2017年11月25日(土) 14:00〜16:00

 会 場: 高知県立県民文化ホール グリーンホール

 座 長: 森田 学 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野)

      岩田耕三 (高知県歯科医師会)

 演 者: 岡田寿郎 (日本歯科医師会地域保健委員会)

      加藤 元 (日本アイ・ビー・エム健康保険組合予防歯科)

      林 浩範 (香川県健康福祉部健康福祉総務課)


座長と演者


 はじめに

 学会の講演集に掲載された「座長の言葉」を、研修会の趣旨として掲載させていただきます。

座長の言葉

  第3期特定健康診査等実施期間(平成30年度〜35年度)における特定健診・特定保健指導の運用についての見直しで、特定健診の質問項目に歯科口腔保健の取り組みに関する項目が新規導入されることとなった。具体的には、項目13、「食事を噛んで食べるときの状態はどれにあたりますか?」という設問である。「人と比較して食べる速度が速い」という項目が既に導入されており、「食」の観点から歯科口腔保健の専門科としてアプローチする内容も拡がってきたといえよう。

  今後は歯科医師が特定保健指導における食生活の改善指導に関与する機会も増えると期待される。従来は、指導にあたっては食生活改善指導担当者研修の受講が要件となっている。しかし、歯科医師法第1条で歯科医師が保健指導を掌ることが規定されていること、標準的な質問票で生活習慣の改善に関する歯科口腔保健の取組の端緒となる質問項目を位置づけたことから、歯科医師が食生活の改善指導を行う場合に、現行の食生活改善指導担当者研修(30時間)の受講は要しないこととなった。とはいえ、保健指導における一定の質を確保することは必須であり、そのための研修は継続的、発展的に行われることになるであろう。

  本研修会では、日本歯科医師会の成人歯科保健プログラム「生活歯援プログラム」の作成に長年取り組まれた岡田寿郎先生、実際に企業健康保険組合内で予防歯科を担当されている加藤 元先生、早食いに対する保健指導の肥満改善効果を実証された香川県庁健康福祉部の林 浩範先生、計3名の先生に講師をお願いした。歯科口腔領域にみられる職業性疾患や作業関連疾患への取り組みは忘れてはならない。それに加えて、医科歯科連携で職域での1次予防を推進するにはどのような具体的メニューがあるのか、参加者全員でイメージを描いてみたい。


 以下に、各講師に作成いただいた講演の事後抄録を掲載します。

(研修担当:森 智惠子)


 講演1.

日本歯科医師会が作成した「標準的な成人歯科健診・保健指導マニュアル」
(略称:生活歯援プログラム)について

日本歯科医師会 地域保健委員会 岡田寿朗

  平成29年11月25日(土)、第27回日本産業衛生学会全国協議会産業歯科保健部会研修会において、日本歯科医師会が作成した「標準的な成人歯科健診・保健指導マニュアル」(略称:生活歯援プログラム)に関して以下の内容で講演を行った。

  まず、平成29年6月9日の閣議で「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)が了承され、その基本方針の一項目として、社会保障分野における健康増進・予防の推進等に関する改革への取組みと題した中に、歯科保健に関して「生涯を通じた歯科健診の充実、入院患者や要介護者に対する口腔機能管理の推進など歯科保健医療の充実に取り組む」事が明記された事について触れた。

  さて今回の講演テーマである、「標準的な成人歯科健診プログラム・保健指導マニュアル」(以下、生活歯援プログラム)であるが、平成17年(2005年)に発表された日本歯科医師会「今後の歯科健診のあり方検討会報告書」の中で謳われていた「一次予防を重視し、受診者のニーズに合わせた歯科保健指導の実現」を具体化させた歯科健診プログラムとして考案され、平成18年(2006年)から3カ年かけて、全国10カ所でのモデル事業としての実施及びその検証の後、平成21年(2009年)7月に日本歯科医師会のHP上で公表されている。

  この生活歯援プログラムは、口腔内疾患の早期発見・早期治療を目的とした従来からの歯科健診(Case finding)とは異なり、疾患をもたらすリスクを発見して(Risk finding)、そのリスクを是正し排除するための行動変容を目的とした、いわゆる一次予防の概念に基づくプログラムである。従って生活歯援プログラムの要諦は、受診者のニーズに合致した内容に基づく健康教育にある、と言っても過言ではない。

  また平成20年度から開始された特定健診・特定保健指導も、この生活歯援プログラムと全く同じコンセプトで実施されており、故に、生活歯援プログラムと特定健診・特定保健指導との親和性は非常に高いと我々は考えている。

  ただ、生活歯援プログラムの公表以来、8年が経過しているにも関わらず、本プログラムを用いた歯科健診は、ごく一部の地域に限定されたものになっており、普遍的なプログラムとして認知されているとは言い難い状況にある。

  今回の研修会では、本プログラムのコンセプト及び現況について説明の上、フロアからの意見を交えて、本プログラムの推進を図る上で何が必要なのかを考察すると共に、本プログラムの今後の展開等について意見を交わすことができた。


 講演2.

健康保険組合の取り組み

−行動変容を目的とした歯科予防プログラムの展開−

日本アイ・ビー・エム健康保険組合予防歯科 加藤 元

  特定健診とは、心疾患や脳血管疾患等の生活習慣病の予防のために、40歳から74歳までの方の就労者および家族を対象に、生活習慣病の発症リスクとなるメタボリックシンドロームに着目した健診である。その結果をもとに、生活習慣の改善により予防効果が期待できる対象者に、保健師や管理栄養士などが行うのが特定保健指導である。一般定期健康診断は企業に実施義務があるが、特定健診・特定保健指導は医療保険者が実施の主体となる。主目的は、当該年齢層の増大していく医療費の適正化と、高齢者医療への拠出金の抑制に他ならない。しかしながら、特定健診には歯科の項目はなく、特定保健指導の手引書に記載されている歯科の内容もわずかで、口腔保健活動が積極的に実施されているとは言い難いのが現状である。

  一方、歯科疾患、特に歯周病の改善・予防のために必要な歯みがき以外のリスクファクター(喫煙、ストレスなど)への対応は、他の生活習慣と共通したものであり、その取り組みが波及効果として生活習慣病改善につながっていくことが示唆されている。また、糖尿病と歯周病は相互リスクファクターであり、医療費負担が大きい人工透析が必要になる最も大きな原因である糖尿病性腎症を防止(糖尿病の重症化予防)にとっても、歯周病への取り組みは大変重要である。また高年齢者では、咀嚼能力と認知、転倒、歯数と介護、歯数と死亡、歯の数と医療費にも差が生じることがわかっており、歯と口の健康度が全身の健康レベルを左右するといっても過言ではなく、特定健診の対象となる年代からの歯科予防介入が必要である。おりしも、平成30年度から特定健診の問診に、咀嚼機能に関する項目が追加され、従来からのはや食いや間食等の項目とともに、歯科の予防介入が着目されることが予想される。

  そこで、日本アイ・ビー・エム健康保険組合では、疾病予防プログラムの保健事業として歯科予防プログラム(p-Dental21)を展開しており、健康保険組合の事例として紹介を行った。当該歯科予防プログラムの目的は、成人の歯の喪失につながる歯周病を改善させ予防させることであり、自覚の少ない歯周病に気づき、その成因や改善・予防の知識を伝え、歯科保健行動を変容させリスクファクターを低減させることである。対象者は、健康保険組合に加入する被保険者本人の希望者すべてで、大規模事業所では通年、中小規模事業所では3年おきに実施している。プログラムの内容は、@歯科医師によるインタビュー、歯周病健診およびCCDカメラを用いた説明、A歯科衛生士によるPCおよび位相差顕微鏡を用いた歯周病とリスクファクターの解説とセルフケア方法のガイド、Bプログラム後のフォローアップメール、自己学習型歯科予防プログラム(いーでんたるへるす)のフォローから構成される。所要時間は30分である。このプログラムと通常の歯科健診との差は、治療を勧告する疾病管理ではなく、歯周病に気づき、歯周病の知識を伝え、具体的な改善・予防法を学習するまでの一連をパッケージ化している点である。また、家族を含めた啓発活動として、健康保険組合が発行する季刊誌による情報発信や、会社の家族向けイベント時に幼少〜学童期の家族を対象としたう蝕予防・食育のセミナー等の活動も行っており、あわせて事例を発表した。


 講演3.

特定保健指導における歯科保健指導の効果

香川県健康福祉部健康福祉総務課 林 浩範

  今回、特定健康診査・特定保健指導(以下、「特定健診・特定保健指導」)に、歯科専門職による早食いに対する指導を追加した場合の肥満改善効果についてお話しさせていただいた。

  平成20年4月より、生活習慣病の予防・早期発見を目的として、特定健診・特定保健指導が開始された。早食いに関する質問項目は、特定健診の質問票の中に含まれているが、特定保健指導での早食いの指導内容は、運動指導等に比較して充実しているとは言い難い。また、特定保健指導において早食いに対する保健指導が、生活習慣病の発症または重症化の要因となる肥満の改善に効果をもたらすかどうかは明らかになっていない。そこで、特定保健指導時に、歯科専門職による早食いに関する指導を追加した場合の肥満改善効果について、香川県内の市町で行われる特定保健指導に介入し、検証することとした。

  対象者は、香川県内のA地区、B地区において、平成21年度または22年度に特定健診を受けた結果、特定保健指導が必要と判定され、かつ翌年度の特定健診も引き続き受診した者とした。各地区で、特定保健指導に参加した者(指導群)と参加しなかった者(非指導群)に分け、A地区の指導群に対しては、通常の特定保健指導に追加して歯科専門職による早食いに対する指導を行った(早食い指導群)。B地区の指導群には、通常の特定保健指導を行った(標準指導群)。非指導群については、各地区の指導群の年齢とBMIをマッチングさせて選定した(A地区非指導群、B地区非指導群)。早食い指導群に対して実施した指導内容として、初めに歯科医師が咀嚼の重要性等について講義した。次に、よく?むことを意識してもらうために、行動療法のセルフモニタリング法を用いて、食事にかかった時間および咀嚼回数、体重について、特定保健指導初回から3か月間記録してもらった。さらに、希望者には、歯科医師または歯科衛生士によるブラッシング指導を行った。

  各グループの初年度と1年後の特定健診データを用いて、体重、BMI、腹囲の変化について評価した。その結果、早食い指導群は、他のグループに比べて体重、BMI、腹囲が有意に減少していた。また個人の行動要因の影響を除いた場合でも、早食い指導群と標準指導群との間で、体重等の3項目の変化量に有意な差が認められた。このことから、特定保健指導の参加者に対し、歯科専門職による早食いに対する指導を併用することは肥満の改善に有効であることが示された。

  香川県内では歯科口腔保健事業を積極的に実施している事業所は少ない。これは、産業保健に対する歯科専門職の関わりが少ないことが原因の一つと考える。県の保健行政に携わる歯科専門職として、職域での歯科口腔保健の取組みを推進するため、今回使用した講義資料等を保健指導に関わる他職種の方にも活用できる形にして提供するなど、保健事業を実施するために必要な環境づくりについて産業保健関係者に継続的に働きかけていきたい。



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