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2019年4月23日
平成29年度関東産業歯科保健部会研修会の記録


  2018年2月3日(土)13:00〜15:40に、「エビデンスを現場でどのように活かすか」をテーマとして、平成29年度関東産業歯科保健部会研修会が、東京医科歯科大学で開催されました。参加者は22名でした。

  はじめに座長の佐々木好幸先生(東京医科歯科大)が、本研修会の趣旨として、エビデンスに基づく医療についての重要性は近年ますます認識されているが、その実践にはエビデンスに関する正しい知識をつけることが前提になると話され、その後、エビデンスの基本と応用に関して二人の講師が講演されました。

  湯浅秀道講師(豊橋医療センター)は、エビデンスの重要性と、その信頼性を見分けていく力をつけていく方法について、PubMedの検索方法も含めた基本的な内容を含めて講演されました。具体的な例として、産業衛生で重要な酸蝕歯の研究のトレンドを自分で簡単に把握するためのコツを挙げてお話され、受講者にも分かりやすい内容となりました。続いて安藤彰啓講師(あんどう歯科口腔外科)が、日常臨床の中で行う冷静な観察と記録とともに、多くの情報から信頼できるエビデンスを集めて利用し活用されている実践報告を、「痛み」という口腔領域では最も一般的な問題を取り上げて講演されました。

  身近な問題から、エビデンスを考えられた貴重な研修会でした。以下に2人の講師から寄せられた後抄録を掲載致します。

文責:森智惠子


座長の言葉(抄)

佐々木好幸 国立大学法人東京医科歯科大学統合研究機構

  EBMとは、眼前のひとりの患者の医療判断の決定を行うときに、患者集団を対象にした臨床データのうち入手可能で最も信頼できるもの(=evidence)に基づき、それに眼前の患者の個別性をも考慮して理に適った診療を行うということです。つまりEBMで言うエビデンスは、人間集団を対象にした臨床上の患者に焦点を当てた事実です。

  ランダム化比較試験RCTは個性が薄められたものほど信頼性が高くなるため、信頼性が高いエビデンスでも眼前の患者に良い結果をもたらすかどうかは不確実です。

  今日の研修では講師の先生方からエビデンスの探し方や評価の仕方が話されることと思いますが、個々のエビデンスがどうであるかは本研修の趣旨とは外れます。最新最善のエビデンスを探して闇雲に信じるということは、システマティックレビューを作った人たちやガイドラインを作った人たちの意見に従う医療(Opinion-based medicine)を実践するということです。それはEBMの実践とは逆の医療です。


エビデンスをどのように現場で活かすか

湯浅秀道 豊橋医療センター歯科口腔外科

  EBMとは、エビデンスに基づく医療と言われているが、その定義は、「EBMは 最高の臨床研究(エビデンス)と我々の臨床経験と、患者1人1人の価値とおかれた環境を統合することを必要とするものである・Evidence-based medicine (EBM) requires the integration of the best research evidence with our clinical expertise and our patient`s unique values and circumstances」である。

  本講演では、信頼できるエビデンスを考える視点を持ってもらうため、1.1つの研究より複数の研究のが、信頼できるって本当か・・・?、2.複数の研究を合わせた結果だけが、信頼できるって本当か・・・?、3.利益のエビデンスの結果だけで、信頼できるって本当か・・・?の3つの視点から考えてもらった。

  答えは、EBMには、3つの原則であり、1.都合の良い論文の都合の良い結果のみを使わない、2.メタ分析の数字が一人歩きしないように、その確実性を併記する、3.利益のエビデンスのみで推奨しない、となる。

  今回は、産業衛生で重要な酸蝕歯の研究のトレンドを自分で簡単に把握するためのコツを紹介した。

 (1)まずPubMedで検索する。検索式は、 (dental OR enamel OR dentine) AND (erosion OR tooth wear) AND (occupational OR worker)でMeSHなどは使わなかった。

 (2)結果のタイトルのみの一覧を、テキストマイニングツールのサイトで解析する(https://textmining.userlocal.jp/

 たったこれだけであり、EBMは、より効率よくエビデンスを考えるツールにしかすぎないことを体験してもらった。


 参考文献:湯浅秀道(編著), 安藤彰啓, 宮下裕志, 長尾 徹, 大儀和彦. 抜歯・小手術・顎関節症・粘膜疾患の迷信と真実.クインテッセンス出版株式会社(東京).2015.

湯浅先生


 Orofacial PainのEvidence

安藤 彰啓 あんどう歯科口腔外科〈口腔顔面痛・口腔内科〉

 痛みの定義

 @IASP: Unpleasant sensory and emotional experience, associated with actual or potential tissue damage, or described in such terms of such damage.

 AMcCaffrey: Pain is whatever the experiencing person says it is, existing whenever he/she says it does. (痛みとは、それを感じている本人が、痛みであるといい、それが存在しているというのであれば、存在するものである)


 痛みの発生機序

 @信号変換:外的刺激によって末梢知覚神経に活動電位が生じる。

 A伝達:活動電位が末梢から中枢へと届けられる。

 B調節、変容:視床において、痛みの強度が調整される。

 C認識:大脳皮質で「痛み」が認識される。


 痛みの発生機序によって分類される、3種類の痛み

 @侵害受容性疼痛:身体に危害を加える可能性がある刺激に、知覚神経が反応する事によって生じる痛み。

 A神経障害性疼痛:知覚神経の感作によって、通常は知覚神経が反応しないであろう弱い刺激でも痛みとして認識してしまう状態。

 B心因性疼痛:侵害刺激もなく、知覚神経にも異常がないにも関わらず、精神的要因によって痛みが生じてる状態。


 見えない痛みの診断

 痛みを生じる可能性のある全身疾患を含めた、痛みに関する総合的知識を持ち、下記の3つのステップで診断する。

 @除外:炎症や感染の兆候など、本来であれば見えるはずの異常が存在しないことを、基本診査・X線検査(必要があればCBCTを含む)によって確認する。

 A再現:痛みを訴える部位に何らかの刺激を加えると、患者の主訴の痛みが再現される。痛みの部位や特徴に一貫性がある。

 B軽減:局所麻酔テストに反応する。適切な治療によって疼痛が緩和される。


 根管治療後も続く痛み

 @12-59か月のフォローアップで175歯のうち21歯(21%)

  Canavan D et al. Int Endod J. 2005 Mar;38(3):169-78

 A通例の歯内治療成功率:96%

  外科的歯内治療成功率:94%

  Khan AA et al. JADA 2014;145(3):270-272

 B6か月のフォローアップで2996歯のうち168歯(5.3%)

  Nixdorf DR et al. J Endod. 2010 Sep;36(9):1494-8.

 およそ5%前後が神経障害性疼痛の可能性がある事を示唆している。


 「原因不明の痛み」の危険性

 Habibianらの調査(2012)によると、口腔顔面領域の痛みを主訴に歯科を受診し、最終的にその痛みの原因が脳腫瘍であったと判明した症例が、過去30年の間で29症例PubMedに報告されている。
Moazzam AA et al. OralSurg OralMed OralPathol OralRadiol.2012 Dec;114(6):749-55.


 Spark Medical http://www.spark-med.com

  ・Presentation Workshop

  ・Clinical English Workshop

  ・Orofacial Pain Basic/Advanced Seminar


 あんどう歯科口腔外科<口腔顔面痛・口腔内科>http://www.ando-pain.jp
住所:東京都千代田区神田神保町2-7 2F Tel: 03-3221-1971(イタクナイ)

安藤先生



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