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2017年9月20日
第90回日本産業衛生学会 平成29年度前期研修会の報告


  平成29年5月11日(木)〜13日(土)に第90回日本産業衛生学会が東京ビッグサイトTFTビル開催され、産業歯科保健部会の平成29年度前期研修会を5月13日(土)に開催しました。

  テーマは「がんと就労 口から支援する 実践編」で、参加者は約60名でした。

 【研修会の内容】

    座 長: 尾崎 哲則 (日本大学歯学部 医療人間科学教室)

    テーマ: がんと就労 口から支援する 実践編

    演 者: 上野 尚雄(国立がん研究センター中央病院 歯科)

         島谷 和恵(住友商事株式会社 人事厚生部 歯科診療室)

  今回の研修会では、産業歯科保健部会フォーラムでの基礎編の後編として、「がん」の治療中の労働者への口腔領域からのサポートについての実践編を企画しました。

  フォーラムに引き続き、はじめに国立がん研究センター中央病院の歯科医師・上野尚雄先生から、「がん患者さんへの口腔領域からの支援」の実際についてお話していただきました。ついで、企業の歯科診療所で行われている、がん患者さんへの口腔領域からのサポートの実践例を、住友商事の歯科衛生士・島谷和恵さんからお話していただきました。その後、会場の皆さんと、「がん」の治療中の労働者への口腔領域からの支援について、多くの職域の歯科保健関係者が実践できる方法等をディスカッションしました。

  以下に演者の事後抄録を掲載致します.

 文責:尾ア 哲則


座長


 [事後抄録]


 歯科が口腔を通して行なう、がん患者の就労支援

 国立がん研究センター中央病院歯科

 上野尚雄

  がんは日本人の死因の第一を占める疾患であり、その罹患率、死亡率は高齢化の影響を受け、今後も増え続けることが確実視されている。日本のがん対策の中でがん診断後の就労問題は、国のがん対策推進基本計画でも重要課題と認識されている。その理由として

 ・治療法の進歩などにより、がんは「不治の病」から「長く付き合う慢性疾患」としての病態が強調されるようになった

 ・がん患者の3人に1人は就労可能年齢で罹患しており、仕事を持ちながら通院加療を行なっているがん患者は、現在33万人以上にも登る

 ・がん好発年齢である高年齢の就労者が増加している

 などが挙げられる。

  がんの診断を受けたとき、治療中はもちろん、治療がある程度一段落した後も、職場復帰や経済的な問題など、就労に関する問題で悩むがん患者は少なくない。働くがん患者と家族を社会全体で支えるための取り組みの一つとして、歯科医療従事者によるがん患者の口腔支援がある。

  がん治療中の口腔の副作用のみならず、治療が終わった後も、がん患者は様々な口腔の問題を抱えることが多い。就労場面に影響するさまざまな口腔の問題(副作用)への対応は、がん医療の現場で欠かせない支援である。

 ・術後肺炎リスク軽減のための外科周術期の予防的口腔機能管理

 ・がん薬物療法における口腔有害事象の対応:予防的な口腔機能管理及び、有害事象発症時の口腔内症状緩和、感染制御、病勢抑制

 ・治療終了後、晩期障害も含めた口腔の諸問題に対しての歯科支援

  口腔の機能である「美味しく食事をとること」や「円滑な会話で他者と良好にコミュニケーションをとること」は、社会的な生活を送る上での根幹の一つである。がん治療のあらゆるステージにおいて、歯科の口腔支持療法はがん患者の療養生活を支え、就労をサポートする支援である。


上野先生


 がんと就労 〜職場における実践〜

 住友商事歯科診療所

 歯科衛生士 島谷 和恵

  厚生労働省から「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が公表され、事業場が、がん、脳卒中などの疾病を抱える方々に対して、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と職業生活が両立できるように求められています。

  弊社は、2005年4月にワーク・ライフ・バランス推進プロジェクトチームを全社横断で組織して以来、様々な取り組みを行っており、現在は、ワークライフマネージメントと改名して運用されています。診療所内ばかりでなく、カウンセラー・キャリアアドバイザー・労働組合等が相互に良好な連携ができる職場風土があります。最近は、くるみん・えるぼし・健康経営優良法人ホワイト500認定を受け、更に仕事の環境改善を進めています。

  歯科診療所も、海外駐在中、口腔のことで困らないように、社員のセルフケア力を高める取組を行っています。その中の一部として、がんと就労問題があります。診療所内の連携は、同じ目標なので良好であり、社員のデータも共有して、信頼と安全な医療を社員に協働で提供しています。対面診療の歯科は、個々の内面の問題にも取り組みやすく、メンタルやがん治療の問題も社員の言葉で伺うことができます。

  近年、がん治療を妨げる事象が発生しないように、感染源精査が行われるようになり、治療前や骨吸収抑制薬使用開始前に、周術期口腔ケアは元より、複数の抜歯依頼が届く場合があります。完全なリスク回避を考えるがん治療担当医と、かかりつけ歯科が把握している情報や考えにはズレがあります。このような場合、対応に苦慮しますが、長年診療をしている歯科は、患者さんを孤立させず、想いに沿いながら支援ができる関係であると考えます。弊社歯科の場合は、一般社員は、モチベーションを高めて頂くために、定期健診や赴任前健診は本人からのコンタクトから開始されますが、がん患者さんは、定期歯科受診が認められており、受診毎に、病状確認を行い、適切な情報提供と口腔清掃を行っています。口内炎・口臭・知覚過敏対策が主な診療となりますが、これらは食事やコミュニケーションと繋がり、本人の生活やがん治療の重要な部分です。

  是非、かかりつけ歯科の機能を活用して、がんと就労支援として患者さんと伴走して頂ける歯科が増えることを願います。


島谷先生



会場


質疑



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