平成28年2月27日(土)に、東京医科歯科大学において平成27年度産業歯科保健部会後期・関東産業歯科保健部会 合同研修会を開催しました。
テーマは「企業特性にあわせた口腔保健活動の展開」で、参加者は37名でした。
プログラム:
座長:森 智恵子(日立製作所 情報・通信システム社京浜地区産業医療統括センタ)
講演: 1.総合病院に併設した健診センターでの継続した歯科健診から見えること
田中 裕子(牧田総合病院歯科・口腔外科)
2.健康保険組合が取り組む予防歯科の展開
加藤 元(日本アイ・ビー・エム健康保険組合・予防歯科)
3.歯科健診機関の取り組み事例
小山 圭子(日本口腔保健協会 保健事業部)
グローバル化による企業の構造変化や高齢化社会の到来により、労働者の持続的な健康確保は以前にも増して重要になり、職域における歯周病対策を中心とした口腔保健活動など、その重要性が認識されています。しかし一方で、職域での口腔保健活動には法的な後ろ盾がないこともあって、歯科検診などの実施率は低く、その他の口腔保健活動も職域保健活動として実施し、継続していくことには様々な困難の伴うことが多いのも現実です。
そこで研修会では、違ったフィールドで産業歯科保健活動を長年実践されている方々にご登壇いただき、その活動内容やノウハウ、またそうした活動から見えてきたことなどをお話しいただきました。実践的な内容も多く含まれていて、講演後は活発な質疑応答がなされ、明日からの職域口腔保健活動の一助になった研修会でした。
以下に演者の事後抄録を掲載します。
文責:森 智恵子
1.総合病院に併設した健診センターでの継続した歯科健診から見えること
田中 裕子 (牧田総合病院歯科・口腔外科)
総合病院に併設した健診センターにおいて、企業歯科健診を平成11年より現在まで継続している。歯科健診は、数社の某大手企業健診の医科健診受診同日に希望者に実施し、結果説明・歯ブラシ指導・生活上のアドバイス等簡単な保健指導も行なう。受診率は該当受診者の8〜9割を維持し、現在年間約1600〜1700名(年齢35〜60歳)を行っている。健診の際に歯周病と全身疾患・禁煙支援を伝えてきた。健診結果より、平成20年歯周病学会等で『歯周病とメタボリックシンドロームとの関連―歯科検診とドック健診の経年成績からー』で歯周病と全身の関連性を示した。一方、喫煙者の歯周病の重症化・治療の困難さは周知の事実である。口腔は、歯面着色・歯周ポケットの悪化など、喫煙の影響を受診者に鏡一つで直接視覚的に説明できる利点がある。平成25年人間ドック学会『歯科健診における禁煙指導は、禁煙支援の一助となるか?』で、国民健康調査・歯科健診無しの医科健診群より、歯科健診時に継続的な禁煙支援を行うと喫煙率が早期に下がる結果を得て、歯科健診の有用性を示した。健診は5分〜10分で完結させるが、情報提供を待合室・診査中・診査後多場面で心がけ、継続を強みとして、過去の健診結果を踏まえた保健指導を行えている。病院勤務し、外来に加え病棟・老人施設への往診し、特有の口腔問題に直面すると、予防の大切さに立ち戻る。健診対象年齢は、本人の健康は勿論、これから親になる・家族の介護問題に直面する人もおり、口腔保健の大切さを伝える意味が強いと考える。近年歯周病は、NASH・AD等との関わりも述べられ、歯科健診の有用性は増している。今後も、受診者の健康保持に寄与する、歯科健診を継続したい。追補:歯科健診を続けるコツ@新しい時代に合った目標を持つA毎年継続して受診者の方に会えることを心から喜ぶB受診者の方の良い点を必ずお伝えする。C共感的対応を心がけ行動変容を見逃さず!
2.健康保険組合が取り組む予防歯科の展開
加藤 元(日本アイ・ビー・エム健康保険組合・予防歯科)
日本アイ・ビー・エムでは以前から、社員の福利厚生のため3つの事業所の歯科診療室で治療を行っていた。しかし利用者が一部の社員に限られ、治療中心の診療活動に疑問が生まれてきた。そこで、治療のみならず疾病を減らすことを目的に、1990年代後半から歯科健診とその後のフォローアップに取り組み始めた。すると、歯間清掃率が大幅に増加し、歯周病が改善されるとともに、歯科医療費の抑制効果も認められた。
これを受けて、2004年から健康保険組合が主体となり、全社員を対象に、全国の事業所で歯科予防プログラム(p−Dental21)を実施した。上記の製造業を中心とした事業所で行っていた集団型のプログラムを改変し、歯周病健診からフォローアップまで30分かけて行う個人型のプログラムとした。プログラムでは、CCDカメラを使った歯科医師による歯周病健診、位相差顕微鏡を使った歯科衛生士による歯周病のメカニズムの解説と、その改善・予防法のガイドから構成され、目で見て気づきを起こさせ保健行動を変容させることに重点においた。またWebによる自己学習による復習やメールでのフォロー、口腔衛生用品の社内販売等などもあわせて行った。これに加え、健康保健組合の家族向け健康イベント、新入社員教育、口臭予防のためのビジネスマナー教育、安全衛生委員会、定期的な情報発信等、さまざまな機会をとらえて啓発活動を行ってきた。
その結果、歯間清掃を含めた歯科保健行動の変容、歯周病の改善のみならず、歯科医療費の抑制により費用便益効果も表れた。
今後は、歯周病・咀嚼の改善が全身の健康にどう寄与するかを調査し、総医療費の抑制効果についても検討を重ねていきたい。
3.歯科健診機関の取り組み事例
小山 圭子 (日本口腔保健協会 保健事業部)
1.日本口腔保健協会の歯科保健活動
当協会は1961年設立し、健康保険組合、共済組合等から委託を受けて長年歯科保健活動を行い、継続実施の効果として「歯周病の減少」(図)、「歯の喪失防止」等を確認している。また、職域においては、歯周病と糖尿病、咀嚼と肥満など、メタボリックシンドロームとの関係に着目した歯周病予防および口腔機能の向上を目標とした支援が重要である。歯の健康相談(個別)、歯と口の健康セミナー(グループ)をとおして、セルフケア支援と併せて全身の健康との関連性に重点を置いた活動を実施している。
2.職域歯科保健活動の実際
就業時間中に歯科保健活動を実施する場合、一定時間で効果的な健康支援を行う工夫が必要であり、平成27年度から口腔観察記録を記録紙からタブレットPCに変更し、記録時間を短縮した。また、健康保険組合等が期待する「参加者の拡大」、「歯科医療費の削減」に対しては、口腔細菌測定、3ステップケア(歯磨き、歯間部清掃、薬用洗口液)を取り入れたことにより成果が出ている。それは歯科医院では体験できない口腔細菌測定や、洗口液指導による爽快感の体験などが参加者のモチベーションを高め、口腔保健状況が改善されたことに結びついていると思われる。
3.今後の歯科保健活動に向けて
口腔状態を「見える化」、「数値化」することは参加者の満足度、関心度を高めること、口腔観察データの分析結果を定期的に健康保険組合等にフィードバックして、次の活動企画に生かすことなど、PDCAサイクルに基づく確実な保健活動を推進したい。
また、業態に応じた実施方法、非参加者の参加を促す対策の検討、職場の健康づくり対策に歯科保健を位置づけるため、保健事業担当者、多職種との緊密な連携が重要であると考える。
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