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2013年4月27日
平成24年度産業歯科保健部会後期研修会の記録


 2013年2月17日(日)に、平成24年度後期研修会が、東京医科歯科大学1号館西7階 口腔保健学科第3講義室において開催されました。参加者は29名でした。


 今回の研修会は、「就労者のためのスポーツ歯学」というテーマで3人の先生方にご講演をしていただいた。

 最初に、日本スポーツ歯科医学会理事長・日本臨床スポーツ医学会常任理事で明海大学学長 安井利一先生から「スポーツ歯学」(総論)と題して講演いただいた。今回のテーマは、参加者ほとんど全員が、初めて聞く領域のため、「スポーツ歯科医学の目的と概要」といった基本的な事項からお話していただいた。そのなかで、スポーツ歯科学がアスリートだけのためのものでなく、国民のスポーツを支援することによって健康寿命の延伸やQOLの向上につながるといったところは、まさしく「就労者のため」につながる重要な部分でありました。

 ついで、東京医科歯科大学大学院スポーツ医歯学分野(国立スポーツ科学センター(JISS)非常勤医師・歯科担当)上野俊明先生からは,「スポーツ歯学」(各論)をしていただいた。この中では,オリンピック等代表候補選手には定期および派遣前健診が義務付けられており、その中で「歯科」があるというのは、成人・産業歯科保健の現場から見れば羨ましい限りでした。歯科健診は,国際オリンピック委員会による2009年コンセンサスステートメントに準拠しているということを聞き、スポーツ界では世界的に歯科への関心が高いと感心しました。また、スポーツ傷害の安全対策での防具の使用が有効性については,歯の防具としてのマウスガード・顎顔面の防具としてフェイスガードについて,具体的で,ほとんど経験がない私にも理解できました。

 最後に,「スポーツ栄養」と題して、産業栄養研究会の管理栄養士である菊池 眞代先生に、講演いただきました。競技スポーツの世界は、「勝ってなんぼ」の商売であり、この目的のため、自助努力はもちろん、多方面からサポート体制のひとつとしての「スポーツ栄養」の位置づけと、「栄養」という活動エネルギーの原点となるものを対象としているとお聞きして、改めてプロスポーツでの栄養の意義について考えるところがありました。そして、栄養マネージメントとして「食に関する全てをサポート」することで、その方法は栄養スクリーニングから始まり、PDCAサイクルを回しながら、多くのスタッフと連携してチームや個人に関わっているという点にかなり興味をもちました。そして、スポーツ栄養の個々人の状況に合わせた適切な栄養補給をする考え方は、メタボ対策を含む健康づくり支援にも繋がることであるというお聞きして、「勤労者のための」スポーツ歯学というテーマにつながった感じがしました。

 最後に講演いただいた3人の先生方に、短い時間にもかかわらず、あまり学ぶ機会が少なかったスポーツ歯科という分野での研修ができたことを感謝致します。 以下に演者の事後抄録を掲載します。

 (文責:座長 尾崎哲則)

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 「就労者のためのスポーツ歯学」(総論)

日本スポーツ歯科医学会理事長
日本臨床スポーツ医学会常任理事
日本口腔衛生学会副理事長
明海大学学長 安井利一

 1.スポーツ歯科医学の目的と概要

 スポーツ歯科医学は「歯科医学領域からスポーツを支援する科学と技術」であり、具体的には次の3つの目的を持っている。

 1) スポーツ歯科を通じて、国民のスポーツ支援することにより健康寿命の延伸やQOLの向上に寄与する。

 8020運動は20年が経過し、既に8020達成者は38%を超えている。8020運動の20本という歯数は「食べる機能」から導き出されたものであるが、スポーツ歯科臨床の立場では、運動・スポーツがよりしやすくなるという効果も予測されている。また、高齢者においては、生活を自活できることや安全に行動できることが大切なことである。

 2) スポーツ歯科を通じて、顎顔面口腔外傷等の安全と安全意識の向上に寄与すること。

 顎顔面口腔領域の外傷の予防ならびに対応は、歯科医師の積極的な対応が望まれる領域である。口腔外傷による歯の喪失は、QOLの低下などを引き起こし生涯にわたる健康の保持増進に影響を与える。特に、学齢期の口腔外傷は、長期間にわたり問題となることもあるので十分な注意と配慮が必要である。3歯以上の補綴を必要とするような歯の障害は、全障害の約23%を示している。最近10年間の状況をみると、徐々に減少傾向にはあるが、なお改善が必要である。口腔外傷の予防においては主体管理と環境管理の両面から考える必要がある。主体管理ではマウスガードの使用が推奨される。我が国でマウスガードの普及が進まないのは、安全教育が実施されていないからである。歯科医師の安全教育への貢献がおおいに期待される。

 3) スポーツ歯科を通じて、スポーツ競技力の維持・向上に寄与すること。

 スポーツ競技力は、心・技・体の3者のバランスの上に成り立つものであるから、顎口腔系だけの管理で左右されるものではない。しかし、咬合の変化によって、筋力が変化したり、身体動揺が変化したりすることは知られているので、歯・口腔の健康な状況を確保しておくことがすべての基本であることは言うまでもない。子どもの競技力も成人期以降の競技力も歯や咬合の状態によって向上することができるであろう。歯科医療は、内科のように心電図や血圧などを測定してスポーツのリスク管理をするような診療科ではなく、より積極的に咬合の確立を通じて、国民がスポーツに取り組みやすくなる状況を創り出せる可能性を秘めているといえる。

 2.日本体育協会公認スポーツデンティスト

 平成24年7月に日本体育協会と日本歯科医師会は「日本体育協会公認スポーツデンティスト」の育成で合意し発表した。

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 就労者のためのスポーツ歯学(各論)

東京医科歯科大学大学院スポーツ医歯学分野
(国立スポーツ科学センター非常勤医師・歯科担当)
上野俊明

 運動やスポーツに怪我(外傷)は付きものであるが,外傷だけではない。過度のトレーニングによって故障(障害)を来たす。また選手も人の子であり,生身の人間である。当然病気(疾病)にもなる。こうしたことから,競技者やスポーツ愛好家の健康管理,スポーツ傷害(外傷・障害)や疾病の診断・治療・予防,そして競技力の維持向上を図る上で,医歯科学サポートは有効かつ必要不可欠なものとなっている。

 競技者等の健康管理を行う上で,定期健診が有効かつ重要である。産業界で企業健診が導入実施されているように,スポーツ界でもオリンピック等代表候補選手には定期および派遣前健診(内科,整形外科,歯科)が義務付けられている。派遣前健診の対象はオリンピック,ユースオリンピック,アジア大会,東アジア大会,ユニバシアードといった主要国際大会である。なお歯科健診が義務化されたのは1988(S63)年の第24回夏季オリンピック・ソウル大会からである。

 現在,我が国のトップ選手に対する医歯科学サポートは国立スポーツ科学センター(JISS)を拠点に実施されており,選手達は心身のコンディションを整え,ドーピングにも留意し,最高のパフォーマンスを発揮することが求められる。JISSにおける歯科健診は,国際オリンピック委員会による2009年コンセンサスステートメントに準拠し,問診票,パノラマX-P検査,および口腔内診査(DMF,修復補綴,智歯,CPI,咬合,顎関節)を基本とし,咬合検査もオプション実施している。

 スポーツ傷害の安全対策の要諦として,強靭な肉体作り,ルールの遵守・フェアプレー,用具・防具の使用および環境の改善等が示されているが,とりわけ防具の使用が有効とされる。歯の防具としてマウスガード(MG)が,顎顔面の防具としてフェイスガード(FG)が知られ,ルールで着用が義務化づけられている種目も多い。MGは自分自身で形態や咬合を付与する既製品より,カスタムメイドタイプのほうが外傷防護能,装着感ともに優れており,国際歯科連盟(FDI)でもスポーツマウスガードに係る政策声明を2008年から採択しており,カスタムメイドMGの使用を強く推奨している。

 また最近では,顎顔面骨折等の外傷事故から早期復帰をサポートする患部保護装置としてのFGの有用性が国内外から報告されるようになり,サッカー選手やバスケットボール選手を中心に,ニーズが高まっている。

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 「スポーツ栄養」

菊池 眞代(産業栄養研究会、管理栄養士)

 昨年はオリンピック年であり、国際試合となると応援にも力が入る。そして、景気回復という経済的効果を期待して、2020年開催のオリンピックを東京都へ招致する運動が活発に展開されているところである。

 競技スポーツの世界は、学校保健や一般の健康づくりと異なって「勝ってなんぼ」の商売であり、その目的に対して自助努力はもちろん、多方面からサポート体制とられている。そのひとつが、「栄養」という活動エネルギーの原点となるものであり、管理栄養士の養成課程では基礎知識の上に成り立つ「応用栄養学」の分野に位置付けられている。

 「スポーツ栄養とは、コンディショニングとパフォーマンスに関する科学的理論を根拠とし、さまざまな実践に裏付けられた学問である。」と定義され、その目的は、勝つことのみならず競技生活の実践や継続でもある。

 それらスポーツには種目特性があり、年齢や性別、トレーニング状況や体調などの諸々の状況を考慮し、それに合った栄養管理が求められている。つまり、栄養マネージメントとして「食に関する全てをサポート」することである。その方法は栄養スクリーニングから始まり、アセスメント・サポート計画・実践・評価へとマネージメントサイクルを回しながら、多くのスタッフと連携してチームや個人に関わっている。

 アスリートが競技開催日にピークパフォーマンスを発揮するためには、日頃から良い練習を積み重ねることが重要である。そのためには、状況変化に対応した必要なエネルギーや水分補給、栄養バランスの良い食事をタイミング良く摂ることである。サプリメントが必要になる場合もあれば、口腔保健が関与することもある。日本体育協会のメディカル・コンディショニング資格として、「スポーツドクター・アスレティックトレーナー・スポーツ栄養士」に加え、歯科の先生が仲間入りしたことは大変頼もしいことである。

 今日の高齢化社会にあって、スポーツ栄養の個々人の状況に合わせた適切な栄養補給をする考え方は、メタボ対策を含む健康づくり支援にも繋がることである。人体の栄養状態の評価する「人間栄養学」に基づいた活動が、人々が健康で活力ある社会生活を営めるよう共に連携した活動できることを期待する。

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