2010年2月20日(土)東京医科歯科大学 歯学部1号館 特別講堂にて、産業歯科保健部会・関東産業歯科保健部会 合同研修会が開催されました。参加者は産業医の先生方も含め50名で、密度の濃いご講演と活発な質疑応答がなされました。
研修のメインテーマは「職業性歯の酸蝕症」でした。
はじめに座長の尾崎哲則先生(日本大学)から、酸蝕症は過去の疾患ではなく、また職域における歯科特殊健診の現状にはさまざまな問題があるとのお話があった後、4人の講師によるご講演がありました。
最初に、矢崎武先生(西部労働衛生コンサルタント事務所)が、「産業歯科医の要件」で、講演されました。まず、歯科特殊健康診断すなわち「歯の酸蝕症健診」という発想を改めて欲しいと訴えられ、特殊健診を行う歯科医師の化学物質に関する知識の必要性や、歯だけでなく軟組織の変化やその他の症状もみる必要性をお話されました。また、職業性歯の酸蝕症の症状や診断について症例写真とともに解説され、豊富なご経験から、酸蝕症診断ではむし歯や歯周病を併せてみないほうがよいだろう、できれば写真の記録をとっておく、診断に迷ったときは「E0疑問型(経過観察)」としておく、など具体的で有益なお話をいただきました。
次に、岡村勝郎先生(岡村労働衛生コンサルタント事務所)が、「酸取り扱い業務における作業環境改善」について講演されました。メッキ工場における実例、診断例などをまじえた局所排気装置設置の事例とともに、有害物質の曝露に関する危険性・有害性を評価するリスクアセスメントの手順について、ワークシートを用いての実習を交えながらご説明いただきました。普段、実施する機会のないリスクアセスメントの手順が考え方とともに良く理解できました。特殊健診を行う上で、口腔内の状況だけでなく、健康障害を起こすその背景に考えを及ぼすことの重要性も認識することができました。
松木一美先生(日本歯科衛生士会)からは、「歯科特殊健康診断の立ち上げから実施まで」のタイトルで、某食品関連会社で特殊健康診断を立ち上げた事例をご講演いただきました。社内において、歯科特殊健康診断の必要性に気づき、アンケート調査などの実態調査や会社への実態報告と健診実施の働きかけ、さらに健診の実施方法など、具体的にお話いただきました。また実施と継続には、常に情熱を持って取り組んで行くことが重要だと話されました。
最後に、労働衛生コンサルタントであり歯科医師である村松淳先生(村松労働衛生コンサルタント事務所・東京歯科大学水道橋病院)から、職域における歯科特殊健康診断の現状と問題点に関するご講演をいただきました。強酸類を扱う事業場での歯科の特殊健診が、一般歯科健康診断と混同されて実施されていたように考えられるケースや、特殊健診を行うべき事業場で健診の実施義務を認識していなかったケースなどご報告がありました。歯科医師による特殊健康診断や産業歯科医の業務が正しく理解されるための広報活動に加え、歯科医師の健診に関する研修の機会を増やし、その資質の向上に努める必要性を感じられていると結ばれました。
質疑では産業医の先生方からの歯科特殊健診に関する疑問、歯科特殊健診を行っている健診機関から現場での混乱に関する問題提起、局所排気装置の材質に関する岡村先生へのご質問などがあり、活発な討論がなされました。 |