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2009年12月28日
2009年11月7日に開催された 第19回日本産業衛生学会
産業医・産業看護全国協議会 産業歯科保健フォーラムの記録


11月5〜8日に、秋田県総合保健センターで開催された、第19回日本産業衛生学会産業医・産業看護全国協議会のメインテーマは「職場における健康力と産業保健」でした。7日(土)14:15からは、メインテーマに沿って、「職場における歯科健診の新たな展開」というタイトルで、産業歯科保健フォーラムが37名の参加者をもって開催されたので報告します。

従来より職域では発症後に疾病を発見し、治療勧告を出す疾患管理型の歯科健診が行われてきました。しかしながら健康の保持増進のために、スクリーニングとしては十分とはいえない面がありました。今回の歯科保健フォーラムは、このような疾患管理型の歯科健診から新しい歯科健診への転換についてのご講演でした。

メインタイトル:「職場における歯科健診の新たな展開」

座長:藤原 元幸(秋田県歯科医師会常務理事)

シンポジスト:

1) 畠山 桂郎(秋田県歯科医師会) 

2) 稲葉 大輔(岩手医科大学歯学部口腔保健育成学講座口腔保健学分野) 

3) 佐藤 保(岩手県歯科医師会) 

4) 小関 健由(東北大学大学院歯学研究科予防歯科学分野)  

1) 畠山 桂郎 氏「秋田県での産業歯科の現状」
秋田県は他都道府県と比較して、DMF指数やウ蝕保有率が高く、補綴物の未装着者が多く、また40歳以降20本以上歯を有する人の割合も低いという状況です。そのためこれまでにも様々な成人歯科健診(政府管掌健康保険での歯科保健事業、秋田県市町村職員共済組合の歯科健診事業、地方職員共済組合の歯科健診:疾患管理型)を行ってきましたが、その実施率、受診率が低く効果があがらない状況でした。そこで今後、1次予防を中心とした歯科健診プログラムである日本歯科医師会の「標準的な成人歯科健診プログラム・保健マニュアル(平成21年7月)」の有効活用に向けて検討していくとのご講演をいただきました。

 

2) 稲葉 大輔 氏「口腔機能検査の現状」
職域の歯科保健では、歯を失う最大のリスクでありかつ全身疾患とも関連する歯周病のスクリーニングが課題となっています。スクリーニングとは集団に対して、迅速な検査で無自覚な疾病や障害を暫定的に識別することです。そして発症前やその初期においてハイリスク者を識別して専門的管理につなげ、発症あるいは重症化を防止することに意味があります。健診とは本来スクリーニングですが、現在広く実施されているCommunity Periodontal Index ( CPI) 検査は歯周病発症後の形態検査で、本目的からするとスクリーニングには不適です。このような集団健診では唾液などによる検体検査(機能検査)が有用となります。唾液検査は侵襲性がなく時間もかかりません。また様々な唾液検査の中で歯周病に関しては、ガム咀嚼で採取した唾液中のヘモグロビン(Hb)と乳酸脱水素酵素(LDH)の測定および適切にスコア化された問診票を併用することにより、有効な歯周病スクリーニングが可能であるとのご講演をいただきました。

 

3) 佐藤 保 氏「口腔機能検査の働く年齢層での展開」
 従来、市町村等では老人保健法に基づき歯周病健診が実施されていましたが、実施率や受診率は低く、地域格差もありました。新たな特定健診、同保健指導の導入により歯周病健診の役割、地域においても職域においても新たな展開が必要と思われます。そのため岩手県歯科医師会は岩手医科大学と岩手予防医学協会の協力のもと、上記の唾液検査と問診票を用い歯科臨床検査による歯周病リスクスクリーニングが可能な歯科健診を平成17年度から開始しました。このシステムを職域で展開するには産業医と保健師への意識付けが大切です。今後はこのシステムを普及啓発して全国展開していくことが大切であるとのご講演をいただきました。

 

4) 小関 健由 氏「学習する歯科健診の職域での展開」
歯周病予防は30代からの管理が大切です。この年代が日中の大半の時間を過ごす職域における口腔保健管理は、退職後も含めた生涯の健康管理という意味においても非常に重要です。また職域の年齢層は子供、両親など多くの家族と住んでいます。そのため職域での口腔保健は、産業歯科保健と地域歯科保健が両輪となって家族を巻きこみながら推進していくことが大切です。これらを具現化する健診方法として、1次予防に重点をおいた学習歯科健診を行っています。これは口臭測定検査と咀嚼チェック(ガム咀嚼して唾液をチューブに採取し、潜血を確認する)を行い口に対する「気づき」を促がすことを目的としています。同時に、住民による歯科ボランティアを養成することによって地域の歯科知識の底上げを行う活動もしているとのご講演をいただきました。

 

講演の後、尾崎哲則部会幹事から、企業で歯科保健を進めていく際、歯科医療費の抑制効果などメリットを十分示しながら、プライバシーに留意し、疾病を見つけ出すだけに終始することなく、健診をEducationにつなげていくことが重要であるといった追加発言がありました。加藤元部会長からは、働く人のニーズを常に意識し、喫煙や肥満など全身の健康作りとうまくリンクさせながら活動を推進し、職域と地域の垣根をはずした展開が今後職域で必要とされているとの追加発言が続きました。

また、唾液検査のコストや問診票を点数化し類型化するスクリーニング方法、口臭検査をするときの注意点、継続的な支援を行う際のポイント、特殊健診の実施状況など多岐にわたる質疑応答があり、活発な討議が行われました。

最後に藤原座長により締めくくられました。

(まとめ) 
従来の歯科健診は疾患の早期発見・早期対処(case finding)が目的でした。しかしながら同方法ですと受診者のニーズに必ずしも合致せず、受診者の行動変容を促がすには必ずしも効果的とはいえませんでした。そこで歯科健診は疾患のリスクを早期に発見し、そのリスクに対応した対処を行なうこと(risk finding)への転換が必要となります。歯科疾患の予防と生涯にわたる健康を獲得するためには、効果的なスクリーニングとしての唾液検査とスクリーニング後の支援体制(教育、学習:保健指導)が大切です。現在法の改正により老人保健法での歯科健診(歯周病健診)は健康増進法での努力義務へと後退しています。このような時期だからこそ、この新しい歯科健診は重要となってきています。そのため産業歯科保健部会は職域のみならず地域歯科保健と十分連携をとって、職域にいる時にとどまらず、従業員の生涯の健康管理を担っていく必要があると考えられました。

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